historicalmaterialismとドイッチャー記念賞

11月8日にロンドンのSOAS(東洋アフリカ研究学院)で『大洪水の前に』斎藤幸平さんのドイッチャー記念賞(Deutscher Memorial Prize)受賞記念講演です。
ドイッチャー記念賞は過去にデヴィッド・ハーヴェイやエリック・ホブズボーム、テリー・イーグルトン、ロバート・ブレナーらが受賞した非常に権威ある国際的な賞です。斎藤さんはマルクスエコロジー論が末節ではなく、経済学批判において体系的・包括的に論じられる重要なテーマであると明かし、マルクス研究としてだけでなく、資本主義批判、環境問題のアクチュアルな理論として世界で大きな評価を獲得、2018年のマルクス生誕記念イヤーにマルクス研究界最高峰の賞、ドイッチャー記念賞を31歳(受賞当時)の史上最年少で日本人初の受賞をしました。

historicalmaterialism(邦訳すると史的唯物論)はマルクス研究を中心とする学会としては世界最大の団体であり、Versoの編集者セバスチャン・ブゼンが中心となって創設されました。ドイッチャー記念賞の事務局とは異なる団体ですが、近年、ドイッチャー記念賞の受賞講演はこの団体のカンファレンスで開催されています。
マルクス研究を中心に」、というのは必ずしも斎藤幸平さんのようなマルクスを直接対象とした研究だけでなく、左派的な研究、社会科学やアート、アクティビストによる実践報告などを含んでいます。
今年のシンポジウムには『アナザー・マルクス』を翻訳された江原慶氏や
労働と思想』でスピヴァクについて寄稿された西亮太さんもご発表をされます。

斎藤幸平さんはこの渡英のわずか5日間で合計6本の発表をされますが、それも斎藤氏の研究に対する国際的な注目度の高さを表すと同時に、それだけ発表の場があるという左派的な研究における土壌の豊かさを表しているともいえます。

気候変動・移民などグローバルに対応する必要のある社会問題、その根本として共通する資本主義の問題・その関心にこたえる研究として、日本でもますますこうした研究が発展することが求められるでしょう。

【斎藤幸平さんマルクス研究関連著作】
nyx叢書003『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝
『大洪水の前に』201部限定特装版
nyx叢書002『マルクスとエコロジー:資本主義批判としての物質代謝論
『nyx』3号 第一特集「マルクス主義からマルクスへ」

国際カンファレンス"nature, technology, metaphysics"開催

019年6月6~7日、ボン大学においてマルクス・ガブリエル氏がディレクターをつとめる the International Centre for Philosophy NRW(ノルトライン=ヴェストファーレン州 国際哲学センター)主催の国際カンファレンス"nature, technology, metaphysics"が開催されます。

公式サイト案内ページ Nature Technology Metaphysics

Das Internationale Zentrum für Philosophie NRW (IZPH) veranstaltet eine Tagung zum Thema ‚Nature, Technology, Metaphysics‘. Die Tagung versammelt Philosophen aus japanischen und deutschen Universitäten, um sich mit den Herausforderungen auseinanderzusetzen, mit denen die Philosophie sich im 21. Jahrhundert konfrontiert findet. Insbesondere der Problemkomplex von Natur, Technologie und menschliche Lebensformen wird dabei in den Fokus gerückt. Eine neue globale Metaphysik und Ontologie kann nur entstehen, wenn Denker aus Ost und West gemeinsam die dringenden Fragen adressieren.

(邦訳準備中)

本カンファレンスは2018年のマルクス・ガブリエル氏の来日をきっかけとして、ガブリエル氏とセバスチャン・ブロイ氏によって企画されました。
日本からは下記の登壇者が参加されます。
堀之内出版は共催として参加、本カンファレンスを書籍化いたします。
詳細は順次公開いたします。本カンファレンスに関する取材・お問い合わせ等は堀之内出版までお願いいたします。

登壇者
板東洋介 Yosuke Bando
発表 「「東洋的無」は存在するか?」Does "Eastern Nothingness" really exist?
皇學館大学文学部准教授。専攻は日本倫理思想史。1984年生まれ。受賞歴に日本倫理学和辻賞(2010年)受賞。著書に『徂徠学派から国学へ─表現する人間』(単著、ぺりかん社、2019年)、『日本朱子学的新視野』(共著、商務印書館、2015年)、『岩波講座日本の思想 第四巻 自然と人為─〈自然〉観の変容』(共著、岩波書店、2013年)他。
Bando Yosuke is an associate professor at the Faculty of Letters, Kogakkan University, Japan, where he researches and teaches Japanese Ethical thought, especially its pre-modern thought such as Confucianism and Shintoism. He was born in 1984, and was awarded the Watsuji reward by Japanese Society for Ethics in 2010. His selected publications are as follows; From the Sorai school to Kokugaku (2019), New Perspective for Japanese Zhu Xi school of Neo-Confucianism (2015, co-authored), Nature and Artificiality: the Translation of the Notion of “Nature” (2013, co-authored).


セバスチャン・ブロイ Sebastian Breu 
発表 From Minecraft to Planetary Logistics. “Enframing” Heidegger Historically.
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学(表象文化論)専攻。研究領域はエピステモロジー、メディア技術論。1986年、南ドイツ・バイエルン生まれ。受賞歴に、池澤夏樹安部公房の翻訳で第一JLPP翻訳コンクール(ドイツ語部門)最優秀賞。訳書にマーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』(共訳、堀之内出版)。


井頭昌彦 Masahiko Igashira
発表 Against metaphysically realistic physicalism(仮)
一橋大学社会学研究科教授。1975年生まれ。専門は科学哲学(社会科学/人文学)、メタ哲学(哲学的自然主義プラグマティズム)。
Professor, Graduate School of Social Sciences, Hitotsubashi University.
Discipline: philosophy of science(social sciences), meta-philosophy (naturalism, pragmatism, meta-metaphysics)
Born in 1975.
Book: The Possibility of Pluralistic Naturalism (2010=2016)
Papers: "Supervenience thesis and ontological commitment" (2009)
"Pragmatic naturalism and three issues on it" (2014)
"On the Narrativist argument for free will: To what extent do we have to unify the modal contexts?" (2017)

景山洋平 Yohei Kageyama
発表 「事実性における人間の位置と真正さ」The Place and Authenticity of Humans in Facticity
関西学院大学准教授。専門は哲学。1982年生。著書に『出来事と自己変容:ハイデガー哲学の構造と生成における自己性の問題』(創文社、2015年)。ハイデガーを中心とした現象学研究から出発して、近現代ドイツ哲学、近代日本哲学リハビリテーションの理論研究などの領域にも関わっている。
Kwansei Gakuin University, Associate Professor / Philosophy / born in 1982 / Event and Self-transformation: The Problem of Selfhood in the Structure and Development of Heidegger's Philosophy (Sobun-sha. 2015. in Japanese) / Kageyama specializes in phenomenology, especially Heidegger. He works also themes in modern and contemporary German philosophy, modern Japanese philosophy and philosophy of rehabilitation.


斎藤幸平 Kohei Saito
発表 ルカーチの物質代謝論 社会主義実在論のための史的唯物論
大阪市立大学経済学研究科准教授。日本MEGA編集委員会編集委員。専門はマルクス経済学。受賞歴にドイッチャー記念賞(2018年)。1987年生。著書にNatur gegen Kapital: Marx' Ökologie in seiner unvollendeten Kritik des Kapitalismus, Campus, 2016. 共著に『労働と思想』(堀之内出版、2015年)等。編著にMarx-Engels-Gesamtausgabe, IV. Abteilung Band 18, De Gruyter, 2019. 


立花幸司 Koji Tachibana
発表 Socrates and Human Virtue(仮)
熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授、ジョージタウン大学メディカルセンター国際連携研究員、リスボン大学科学哲学センター研究協力者。専門は古代ギリシア哲学および現代の科学哲学。1979年生。訳書にアリストテレス『ニコマコス倫理学(上/下)』(共訳、光文社古典新訳文庫、2015/2016年)、ダニエル・C・ラッセル編『ケンブリッジ・コンパニオン 徳倫理学』(監訳、春秋社、2016)など、論文に“Nonadmirable Moral Exemplars and Virtue Development” (The Journal of Moral Education, 2019), “A Hobbesian Qualm with Space Settlement” (Futures, 2019), “From Outer Space to Earth” (共著, Acta Astronautica, 2017) など。


田中祐理子 Yuriko Tanaka

発表 〈だれが(いったい/どうやって)原子をみたか〉――知覚の層化と1930-40年代原子物理学について "Who (ever/and how) saw an atom?": on the stratified perception around 1930-40 atomic physics.
京都大学白眉センター特定准教授。専門は哲学、科学史。1973年生まれ。著書:『病む、生きる、身体の歴史――近代病理学の哲学』(青土社)、『科学と表象――「病原菌」の歴史』(名古屋大学出版会)、『〈68年5月〉と私たち――「現代思想と政治」の系譜学』(共著、読書人)、『合理性の考古学――フランスの科学思想史』(共著、東京大学出版会)、訳書:グザヴィエ・ロート著『カンギレムと経験の統一性――判断することと行動すること 1926-1939年』(法政大学出版局)、池上俊一監修『原典 ルネサンス自然学 上』(共訳、名古屋大学出版会)など。
Yuriko Tanaka is a program-specific associate professor at the Hakubi Center for Advanced Research in Kyoto University. Her research focuses on the History of Modern Medicine and the Philosophy of knowledge. Her doctral study on the development of biology and bacteriology was published by Nagoya University Press in 2013 under the title, Kagaku to hyōsho; byōgenkin no rekishi [ Science and Representations: a history of "germs"].


高橋アダム Adam Takahashi
発表 Angelic Nature: Alexandre Koyré Revisited
東洋大学文学部哲学科助教。専門は西欧中世・ルネサンス期の自然哲学史。共著に『ルネサンスバロックのブックガイド—印刷革命から魔術・錬金術までの知のコスモス』(工作舎、2019年)等。

Markus Gabriel (Bonn University)
発表 Fields of Sense

Tobias Keiling (Oxford University)
発表 Formatting energy

Sergio Genovesi (Bonn University)
発表 Towards an Ethics of New Technologies

David Espinet (Freiburg University)
発表 Art, Design and the Power of Beauty

Alex Englander (Bonn University)
発表 The Creation of Nature in Hegel and Sartre

Hyun Kang Kim (University of Applied Sciences Düsserdorf)
発表 Beyond the Dualism between Nature and Technology

Jan Voosholz (Bonn University)
発表 Ethics of the Human-Machine-Nature Interaction


斎藤幸平氏ドイッチャー記念賞受賞御祝・コメント

大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』は斎藤幸平氏の»Karl Marx's Ecosocialism: Capitalism, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy«, Monthly Review Press, 2017 の邦訳増補改訂版です。同書はマルクス生誕200周年である2018年のドイッチャー記念賞(Deutscher Memorial Prize)を受賞しました。
ドイッチャー記念賞は1年に一度「最良かつ最もイノベーティヴな著作(英語作品)」に与えられるマルクス研究界最高峰の賞です。過去にはデヴィッド・ハーヴェイ、エリック・ホブズボーム、マイク・デイヴィスなど世界で活躍する研究者が受賞しています。その栄誉ある賞を斎藤氏は日本人初、歴代最年少で受賞されました。
その受賞に対し、さまざまな方からお祝いが寄せらました。ここにそのお名前、コメントを掲載いたします。

(50音順、敬称略)
伊澤高志(立正大学准教授)斎藤幸平さんのことは以前から存じ上げており、とても優秀な若手研究者であることはわかっていたのだが、その斎藤さんがドイッチャー記念賞を受賞したと聞いた時には、「へえ、さすがだなあ」くらいの感想しか抱かなかった。ドイッチャー記念賞を知らなかったのである。で、調べたところ、すごい賞だった。とんだ失礼をしたものである。英文学研究に携わる者のひとりとして、あのテリー・イーグルトンと同じ賞を受賞した斎藤さんには、もう頭が上がらないと思った。でも、会えば親しく接してくれるので、嬉しい。おめでとうございます。ますますのご活躍を。
磯前大地(くまざわ書店八王子店)

岩熊典乃(大学教員)
岩佐茂(一橋大学名誉教授)
 斎藤幸平さんの“Karl Marx’s Ecosocialism”がドイッチャー賞を受賞したとお聞きしました。ドイッチャー賞は、ハーヴェイら、英語圏内の著名なマルクス研究者に贈られてきた賞ですので、斎藤さんの仕事も国際的に高く評価されたのだと思います。斎藤さんの仕事は、新メガやマルクスが生きた時代の思想状況を踏まえた研究ですので、明らかに、マルクスエコロジー研究を一段高い水準にひき上げました。十分に国際的な賞に値する研究です。マルクスエコロジー研究にたずさわっている者として、斎藤さんの研究が評価され、受賞されたことを喜びたいと思います。
チャールズ・ウェザーズ(大阪市立大学教授)Saito-sensei, Congratulations on your award! We await your next book!
江原慶(大分大学経済学部准教授)斎藤さんと私の出会いは必ずしもcheerfulなものではなかったのですが(笑)、その後斎藤さんの学問的な熱意やお人柄に触れ、今では最初の印象と随分変わっています。私などでは及びもつかない八面六臂のご活躍で、恐れ多いと思いつつも、同年生まれのよしみで勝手に友だちだと称しています。
 日本ではマルクスは、マルクス経済学といわれる、経済学の領域が中心となって受け止められてきました。斎藤さんはそれに対して批判的なお立場だと思いますが、斎藤さんの成果が、日本の研究蓄積を批判的に包摂し、新しい領域を切り拓くマイルストーンになることを確信しています。
 国際的に評価の高い斎藤さんの業績が、ついに日本語で読めるようになります。しかも、本人の手による、より充実した内容で。彼のおかげで、これからどんどんマルクスをめぐる論壇は面白くなっていくでしょう。私も楽しんでいきたいと思います。
大河内泰樹(一橋大学教授)日本のガブリエル、斎藤君のドイッチャー賞受賞、当然とも言えますが、ここからまた今後ますます羽ばたいてくれるものと期待しています。おめでとう!
岡崎佑香(ヴッパタール大学博士課程)ドイチャー記念賞授賞、おめでとうございます。基となったドイツ語版や博士論文、ひいてはそれを可能にしたMEGAの編集などを通じて斎藤さんたちがマルクス研究に果たしてこられた貢献が、国際的に高く評価されましたこと、心からお慶び申し上げます。
岡崎龍(フンボルト大学ベルリン博士課程)受賞おめでとうございます。今後も世界史的個人として活躍してください。
柿並良佑(山形大学講師)著書刊行および受賞、おめでとうございます。これからも新たな時代の思想を切り開いていってください。
河野真太郎(専修大学教授)
エコロジーというのは、単に人間の生産活動から切りはなされた「自然」を守るということではありません。それは生産と消費という人間活動に「自然」 も算入して、その全体性を思考することです。
 私はこのことを、イギリスの作家・文化批評家レイモンド・ウィリアムズの後期の著作(『2000年に向けて』など)で学びましたが、本書に出会って、「物質的代謝」の概念を軸に、マルクスの思想全体をそのような意味でのエコロジー思想として読んでいくその鮮やかさに興奮しました。本書は専門的なマルクス研究にとどまらず、私のように文化論を生業とする者にとっても、非常に豊かなフィールドを開いてくれるものです。
 そのような本書が栄誉あるドイッチャー賞を受賞されたことは、斎藤さんご本人にとってだけでなく、日本の学術コミュニティと、ひいては日本社会全体にとって慶賀すべきことだと思います。おめでとうございます。受賞をきっかけに、本書が有益な形で受容されていくことを願っています。
斎藤哲也フリーランス編集者&ライター)斎藤幸平氏の論稿や訳業を目にするたび、単著邦訳版を早く読みたいと心待ちにしてきた。しかも、ドイッチャー記念賞受賞というのだから、期待はいやがおうにも膨らむばかり。この10連休の課題図書は『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』で決まりだ!
酒井隆史大阪府立大学教授)
佐々木雄大日本女子大学人間社会学助教
佐々木隆治(立教大学経済学部准教授)
斎藤くんの新著は間違いなく、これまでのマルクス研究のなかでも最も水準の高いものの一つであり、私の中ではベスト。五年ほど前に本書のもとになった博論の草稿を読んだ時の衝撃が忘れられない。改めてドイッチャー賞受賞、おめでとう!
鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
田中東子(大妻女子大学文学部教授)
中山永基(岩波書店編集者)
いち早く世界で評価された斎藤さんが切り拓く理論的地平は、日本を生きる私たちの日常とつながってるーーそのことを待望の新著『大洪水の前に』で体感できるはず。
西亮太(中央大学法学部准教授)
研究者にとって世界は解釈するだけでは不十分であり、むしろ世 界を変えていかねばならないのだとすれば、地道な文献学的探求の成果の上にこれまでとは異なったマルクスを打ち立てる本書は、変革に向けられたものなのだと思います。本書が広く読まれ、議論を起こし、大きなうねりの発端となることを楽しみにしています。ご出版、おめでとうございます。
藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事権威あるドイッチャー賞の受賞おめでとうございます。日本のマルクス研究の水準の高さを改めて示す功績に敬意を表します。
私たち社会活動家、ソーシャルワーカーも先駆的なマルクス理論研究に実践や運動が負けないように、今後も取り組んでいきます。
百木漠(立命館大学専門研究員)ドイッチャー記念賞受賞、素晴らしい快挙と思います。今後も益々のご活躍を期待しております。
結城剛志(埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授)今年の最良の一書です!
若森みどり(大阪市立大学教授)私は、カール・ポランニーを研究してきた。本書には、20世紀前半のポランニーが嫌悪し距離を置いていたような「教条主義的で決定論的なマルクス主義」とは全く異なる、マルクス自身の試行錯誤の思想形成が活き活きと現れている。マルクスの国際的な研究拠点やそのネットワークのなかで鍛えられ、若くして世界を代表するマルクス研究者となった著者 斎藤幸平氏。斎藤氏によれば、国際的なマルクス研究プロジェクトの方針も揺れ動いてきたが、ようやく、マルクスの晩年に格闘していたテーマ(「抜粋ノート」)が、現在刊行中の新MEGA第4部門に収録されることになった(斎藤氏は、その新MEGA第4部門の編纂プロジェクトに関わっている)。本書は「抜粋ノート」を使いながら、資本主義が生みだした資本主義を超える「大洪水」――1%の富者は危機を脱出する準備をおそらく始めているが、99パーセントの人間は取り残され、生存基盤を失うような、「自然と人間の物質代謝の破壊」――の問題に、晩年のマルクスが挑んでいた姿を見事に浮かび上がらせる。労働(これもまた人間活動の一部である)だけでなく、自然、土地、資源の資本主義的な収奪は、自然破壊や人間の破壊を起こしている。それと同時に、それを解決するための新たな技術革新や市場の仕組みを作り、資本主義がつくりだす問題自体さえ、資本主義の原動力となる。そのような資本主義は、地球が破壊されることが明らかになったとしても、「痛み」を感じることはないシステムなのだ。本書のもともとのドイツ語版は、英語版でも刊行され、そして国際的に優れたマルクス研究に贈られるドイッチャー賞を受賞した。斎藤幸平さん、受賞、および日本語版の刊行、おめでとうございます。日本のマルクス研究も、またマルクス受容も、大きく変わっていくと思います。

「新たな時代のマルクスよ/これらの盲目な衝動から動く世界を/素晴らしく美しい構成に変へよ/宮沢賢治

#nyx5号 第一特集「聖なるもの」合評会開催のお知らせ

日時 12月1日(土)10:00-12:05
会場 東大本郷キャンパス法文一号館215教室

入場無料・事前申込不要

プログラム
趣旨説明
コメント:飯島孝良氏(親鸞仏教センター)
 レスポンス
コメント:藁科智恵氏(東京外国語大学
 レスポンス
(休憩 10分)
コメント:佐藤啓介氏(南山大学
 レスポンス
質疑応答

主催 江川純一・佐々木雄大、上廣倫理財団研究助成「「聖なるもの」の起源と現代の生における可能性」
連絡先 東京大学宗教学研究室 03-5841-3765

『nyx』第5号

《イベント》 大阪市立大学 #Marx200 記念シンポジウム

マルクス生誕200周年を記念したシンポジウムが開催されます。

日程 2018年11月24日(土)
時間 14~18時
会場 大阪市立大学学情センター1階文化交流室(アクセスマップ、住所:〒558-8585大阪市住吉区杉本 3-3-138、最寄り駅:JR「杉本駅」より徒歩約5分、地下鉄「あびこ駅」徒歩20分、「あびこ駅」からタクシー1メーター分程度)

入場無料、申込不要

資本論』第一巻 初版(福田文庫所蔵)特別公開あり

プログラム
 14:00~14:45 斎藤幸平「日本『資本論』物語―解釈としての翻訳」
 14:45~15:30 廣瀬 純「「コミュニズムという幽霊」の現在」
 15:30~15:45 休憩
 15:45~16:30 結城剛志「アナザーマルクス―21世紀のマルクス研究の地平」
 16:30~17:15 百木 漠「いまマルクスを読む意味」
 17:15~18:00 ディスカッション
 各発表は講演30分、質疑応答15分を予定しています

登壇者プロフィール(50音順)
斎藤幸平(さいとう こうへい)大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部准教授。著書に"Natur gegen Kapital Marx’ Ökologie in seiner unvollendeten Kritik des Kapitalismus",Campus Verlag, 2016. 他。

廣瀬 純(ひろせ じゅん)龍谷大学経営学部教授。専門は現代思想・映画批評。著書に『シネマの大義』『資本の専制、奴隷の叛逆』『暴力階級とは何か』『絶望論』『シネキャピタル』『蜂起とともに愛が始まる』『アントニオ・ネグリ』『美味しい料理の哲学』他。

百木 漠 (ももき ばく)
立命館大学専門研究員。アーレントマルクスを中心とした労働思想を研究している。専門は社会思想史。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程修了。著書に『アーレントマルクス:労働と全体主義』(人文書院、2018年)がある。

結城 剛志 (ゆうき つよし)
埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(博士(経済学))。著書に『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』(日本評論社: 2013年)他。

主催 大阪市立大学経済学会

お問い合わせ info@horinouchi-shuppan.com

資本論』第一巻 初版(福田文庫所蔵)特別公開について(追記)
11月5日(月)~12月2日(日)まで、大阪市立大学図書館内にて公開されています。大阪市立大学学生・教職員は通常の入館で御覧いただけます。
学外の方も入館は可能ですが、下記、入館のお手続きが必要となります。
  学外の方へ(学術情報総合センター)
上記イベントの際はイベント用入場として上記の一般手続きなしの入館となります。


#nyx5号 第一特集「聖なるもの」のためのブックリスト

『nyx』第5号「聖なるもの」特集の関連書ブックリストです。本特集を読む前/読んだ後の勉強や、また書店さんのフェアや関連書を並べるご参考としてご活用ください。(選書:佐々木雄大

◆ 入門――〈聖なるもの〉について簡単に知るための入門書
1.ジャン=ジャック・ヴュナンビュルジェ『聖なるもの』川那部和恵訳、文庫クセジュ、2018年。
2.華園聰麿『宗教現象学入門:人間学への視線から』平凡社、2016年。
3.金子晴勇『聖なるものの現象学―宗教現象学入門』世界書院、1993年。

◆ 起源――〈聖なるもの〉概念の形成を知るための基本書
1.ロバートソン・スミス『セム族の宗教』(上・下)永橋卓介訳、岩波文庫、1941年。
2.オットー『聖なるもの』久松英二訳、岩波文庫、2010年。/華園聰麿訳、創元社、2005年。
3.デュルケーム『宗教生活の基本形態』(上・下)山崎亮訳、ちくま学芸文庫、2014年。
4.ユベール/モース『供犠』小関藤一郎訳、法政大学出版局、1993年。
5.エリアーデ『聖と俗―宗教的なるものの本質について』風間敏夫訳、法政大学出版局、1969年。
6.ファン・デル・レーウ 『宗教現象学入門』田丸徳善・大竹みよ子訳、東京大学出版会、1979年。

◆ 展開――現代における〈聖なるもの〉理論の応用・発展
1.バタイユ『宗教の理論』湯浅博雄訳、ちくま学芸文庫、2002年。
2.カイヨワ『人間と聖なるもの』塚原史・小幡一雄・守永直幹・吉本素子・中村典子訳、せりか書房、2004年。
3.トーマス・ルックマン『見えない宗教―現代宗教社会学入門』 赤池憲昭訳、ヨルダン社、1976年。
4.ピーター・L・バーガー『聖なる天蓋―神聖世界の社会学』薗田稔訳、新曜社、1979年。
5.ルネ・ジラール『暴力と聖なるもの』 古田幸男訳、法政大学出版局、1982年。
6.メアリ・ダグラス『汚穢と禁忌』 塚本利明訳、ちくま学芸文庫、2009年。
7.タラル・アサド『世俗の形成――キリスト教イスラム、近代』中村圭志訳、みすず書房、2006年。
8.ジャック・デリダ『信と知:たんなる理性の限界における「宗教」の二源泉』湯浅博雄・大西雅一郎訳、未来社、2016年。
9.アガンベンホモ・サケル 主権権力と剥き出しの生』 高桑和巳訳、以文社、2007年。
10.ジャン=ピエール・デュピュイ『聖なるものの刻印 科学的合理性はなぜ盲目か』西谷修森元庸介・渡名喜庸哲訳、以文社、2014年。
11.ブリュノ・ラトゥール『近代の〈物神事実〉崇拝について:ならびに「聖像衝突」』荒金直人訳、以文社、2017年。

◆ 研究――さらに〈聖なるもの〉を詳しく知るために
1.フロイト『トーテムとタブー』須藤訓任・門脇健訳『フロイト全集』第12巻、岩波書店、2009年。
2.フランツ・シュタイナー『タブー』井上兼行訳、せりか叢書、1970年。
3.ヴィンデルバント『歴史と自然科学・道徳の原理に就て・聖―「プレルーディエン」より』 篠田英雄訳、岩波文庫、1929年。
4.シェーラー『倫理学における形式主義と実質的価値倫理学』吉沢伝三郎・飯島宗享・小倉志祥訳『シェーラー著作集』第1~3巻、白水社、1976~1980年。
5.バンヴェニスト『インド=ヨーロッパ諸制度語彙集 2 王権・法・宗教』 前田耕作・蔵持不三也他訳、言叢社、1987年。
6.ヨハン・フリードリヒ・ハイラー『祈り』深澤英隆・丸山空大・宮嶋俊一訳、国書刊行会、2018年。
7.ロベール・エルツ『右手の優越―宗教的両極性の研究』吉田禎吾・板橋作美・内藤莞爾訳、ちくま学芸文庫、2001年。
8.ジョルジュ・デュメジルデュメジル・コレクション』第1巻、丸山静・前田耕作訳、ちくま学芸文庫、2001年。
9.ドゥニ・オリエ編『聖社会学』兼子正勝・中沢信一・西谷修訳、工作舎、1987年。
10.レヴィ=ストロース『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976年。
11.藤原聖子『「聖」概念と近代―批判的比較宗教学に向けて』 大正大学出版会、2006年。
12.江川純一『イタリア宗教史学の誕生:ペッタッツォーニの宗教思想とその歴史的背景』勁草書房、2015年。
13.奥山史亮『エリアーデの思想と亡命』北海道大学出版会、2012年。
14.『岩波講座 日本の思想 第8巻 聖なるものへ』岩波書店、2014年。
15.『岩波講座 現代社会学 第7巻 〈聖なるもの/呪われたもの〉の社会学岩波書店、1996年。

#nyx5号 第二特集「革命」主旨文公開

 「政治」という言葉で、何を思い浮かべるだろうか? 民主主義、選挙、国会、デモ……かつては、そのリストのなかに間違いなく「革命」も含まれたにちがいない。だが近年、政治と革命が正面から論じられることは稀になっている。じっさい、昨年はロシア革命一〇〇周年であり、今年はマルクス生誕二〇〇年、一九六八年の五月革命から半世紀であるにもかかわらず、革命がそれほど注目されているようにはみえない。「現存社会主義」であったソ連が崩壊し、九〇年代以降グローバル資本主義の勝利が叫ばれるなかで左派は影響力を失い、革命をめぐる言説や実践は背景に退いていった。一般的なイメージでは、革命はヘルメットとゲバ棒を身に着けて、バリケードを築けば、社会が変わると考える馬鹿げた妄想と捉えられているのかもしれない。トランプの当選、ブレグジット、安倍政権の暴走といった現代政治の文脈で重要なのは、そのような妄想ではなく、民主主義の制度設計であり、立憲主義だというわけだ。もちろん、そうした指摘の正しさは疑いようがない。だが同時に、ここで念頭に置かれている「革命」の表象はステレオタイプに満ちていて、貧しい。
 歴史においては、革命はより切迫した問題であり、思想もまた革命を繰り返し扱ってきた。ヘーゲルフランス革命レーニンロシア革命アーレントアメリカ革命、フーコーイラン革命など、いくつもの例をあげることができるだろう。革命は自由と平等を論じる際に不可欠な役割を果たしてきたのみならず、主権、暴力、民主主義をめぐる様々な問い誘引してきたのである。
 革命は暴力的で、破壊的である。だからこそ、人々はそれを民主主義との関連で論じることを望まないし、革命などというものが存在することも認めようとしない。それは左派でさえもそうである。マルクス主義の影響を受けたエルネスト・ラクラウやジャック・ランシエールといった左派は「ラディカル・デモクラシー」を唱え、ユルゲン・ハーバマスに代表される熟議型民主主義を批判している。だが他方で、政治的なものを「出来事」としてとらえていることによって、革命はもはや革命として論じられることなく、デモクラシー内部での出来事へ解消されてしまう。革命はそのポテンツを剝奪され、デモクラシーという名のもとで馴化されているのだ。こうした革命の否認には、独裁やテロルといったやっかいな否定性が革命にとり憑いており、そのことがデモクラシーとの緊張関係を生んでいるという事実に対する暗黙の承認があるのかもしれない。だが、このような否定性から目を背けてはならない。このような否定性は、既存の社会的諸関係にはとらわれない、別の社会のあり方の可能性を示唆してもいるのだから。
 われわれはソ連崩壊後、革命なきポスト共産主義の時代に生きてきた。だが人類史的にみれば、革命の時代はいつ回帰してきてもおかしくない。事実、世界的にみれば、オキュパイ・ウォールストリート、15M運動、アラブの春といった新たな運動の台頭をめぐって、「革命」が再び論じられるようになっている。そのような現状も踏まえ、本特集は、革命の思想史を辿ることによって、自由や平等をめぐる問いを歴史的に再構築していくことにしたい。

斎藤幸平

『nyx』第5号(2018年9月20日発売)

斎藤幸平 一九八七年東京生まれ、大阪市立大学経済学部准教授。著書にNatur gegen Kapital: Marx’Ökologie in seiner unvollendeten Kritik des Kapitalismus(Campus Verlag, 2016.) 等。