よはく舎 ロゴマーク公開

〔2020/08/31 13:01 に別媒体で発表した記事を転載しております〕

よはく舎のロゴをデザイナーの平山みな美さんに作成していただきました。社名の由来、またロゴマークのなりたちを記します。

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よはく(余白)

よはく舎の「よはく」は「余白」です。英語では「margin」、その元のラテン語である「margo」は「縁」という意味です。これらの「中心ではない位置/外側への広がり/これから書き込まれていく場所」へむけてコンテンツを提供するイメージで命名しました。また、よはく舎のブランドのひとつである「nyx(ニュクス、意味:夜)」がやがて迎える薄明をよはくと捉え、「光/これからのスペース/到来する未来」のイメージも重ねています。
ロゴの制作を考えた時に、意味が「本の余白」だけであれば、それだけを具体的なモノとして提示できますが、このように複層的なイメージをどう落とし込んでもらうか、ということを悩みました。平山さんにご相談するなかで「例えば好きな動物などはありますか?」と示唆していただき、でてきたモチーフが「クロウタドリ」です。

クロウタドリ

この黒い鳥は(大勢の日本在住者は黒い鳥=カラスを思い浮かべると思いますが……)、クロウタドリです。これはThe Beatlesの曲《Blackbird》をモチーフにしています。

赤ん坊のころから、私はレコードや父の弾き語りでこの曲をずっと聴いていました。つらいとき、悲しいとき、父とこの曲、そしてカトリック系の幼稚園でシスターから頂いた聖書(The Book)がありました。それが私の文化と読書の出発点です(大人用の聖書が読めるようになるのは少し後でしたが)。

《Blackbird》はジョン・レノンポール・マッカートニーの共同名義、レノン=マッカートニーとなっていますが、実質はポール・マッカートニーの単独作品として知られています。
この曲は公民権運動が盛んだった1957年におきた「リトルロック高校事件」に着想をえて作曲されたそうです。
ポール・マッカートニー、“Blackbird”を書くきっかけになった二人の黒人女性と対面、2016年5月2日、NME JAPAN)
アフリカ系アメリカ人、女性の人権擁護や解放について応援する歌詞に、優しいアルペジオと足のタップが付されたシンプルで美しい曲です。

Blackbird singing in the dead of night
Take these broken wings and learn to fly
All your life
You were only waiting for this moment to arise

真夜中にクロウタドリさえずる
傷ついた羽で飛び立つ 飛べるようになるためにと
これまでの人生でずっと
あなたはひたすら待ち続けていた 飛び立つこのときを
Blackbird fly Blackbird fly
Into the light of the dark black night

クロウタドリは飛ぶよ クロウタドリは飛ぶよ
暗い闇夜の中の光へむかって

クロウタドリは日本でのカラスのように、イギリスやヨーロッパでは都市部でも普通に見られる野鳥です。ヨタカのように夜行性ではないそうで、おそらくポールもそうしたことを知っているでしょうけれど、その鳥が真夜中から光を目指して飛びたつ、という架空のイメージでこの詞は描かれています。
1957年のリトルロック高校事件、60年代に盛んだった公民権運動はいくつもの成果を得ました。しかし、それから約半世紀たった2020年現在、#BlackLivesMatter が起きていることなど、いまだアフリカ系アメリカ人の人権は万全ではなく、同様に女性の人権もまだ十分に保障されていません。私たちは、まだ「傷ついた(傷つけられた)」羽で立ち上がり、声をあげなければいけないのです。

新しい未来(よはくの向こう)へ向かって、傷ついた羽(broken wings)、落ちくぼんだ眼(sunken eyes)で暗い闇夜から飛び立つイメージは、よはく舎のシンボルとしてとてもぴったりくるものでした。
ただし、公民権運動に着想を得た作品を、アフリカ系アメリカ人ではない日本の企業がモチーフとして扱うことに問題はないか、ということも考えました。
何人かの国内外の知人にも相談し、運動内部の作品ではないこと(背景のエピソードとして知られてはいるけれど、一般的に運動の作品として強く意識されておらず、また作者のマッカートニー自身も運動内部のポジションではないこと)、中傷ではなくエンパワメントの意図に賛同の意で用いることなどから文化的盗用、搾取、同化にはあたらず差支えないと判断しました。
ただ、こうした背景も読み込んでロゴのシンボルとすることに恥ずかしくない活動を、という意識は常に持ちたいと思います。

ロゴタイプ

「よはく舎」という文字の書体は平山さんが「NUDモトヤ明朝」を選んでくださいました。モトヤ書体は、朝日新聞社の本文用明朝体を彫った太佐源三氏が1953年にゴシック体を、1954年に明朝体を完成させた端正でありながら可読性が高い書体です。

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明朝体は他にももっと流麗なものなどもありますが、少しクラシカルな印象であったり、より硬い印象になったりします。この書体はユニバーサル書体であること、また「モダンで柔らかい印象もある書体」とご紹介頂き、よはく舎のコンセプトに合うものとして、とても気に入っています。

ロゴと歩む今後

改めて、素敵なロゴを作成してくださったデザイナーの平山みな美さんに御礼申し上げます。

そして、最後にもうひとつポール・マッカートニーの名曲を。
《We All Stand Together》

国際的な知名度はそれほど高くないのですが、イギリスの人気キャラクター「ルパート(Rupert Bear)」のアニメ、「ルパートとカエルの歌」の主題歌としてつくられた歌です。

上記の動画ではカットされていますが、アニメの冒頭とラストにはポール・マッカートニー自身が出演しており、その舞台としてロンドンの書店Jarndyce Bookshopが使われています。

こちらも《Blackbird》と同様に美しい、カエルを模したコーラスがユーモラスな3拍子の夜の歌です。

Walk in the night
You’ll get it right
夜に歩き
あなたたちは正義を手にいれる
Arm in arm, hand in hand
We all stand together
腕に腕を、手に手をとり
私たちはみんな共に立ち上がる

よはく舎のロゴのなかで、傷ついた羽と落ちくぼんだ眼をもつクロウタドリは、進行方向にではなく首をひねって月を見上げています。そのまま進むのではなく、あえて光にむきなおり、小さなさえずりをあげようとしています。
そんなクロウタドリと同じく、小さな版元として改めてスタートをするよはく舎は、弱弱しく、いさましい強いちからはもっていません。
しかし、その暗い闇夜、弱い場所から発信するものが、だれかを助ける糧になること、美しい幸せのもととなることを信じて、それでも――、暗い闇夜から首をひねり、余白(margin)の外、光へむかって、クロウタドリとともに、よはく舎も飛び立ちます。
その先で、多くの仲間と手に手をとり、共に立ち上がる未来を夢見て。

夜は更けて、日が近づいた。だから、闇におこなわれる業をすてて、光の甲(よろい)をつけよう。
(ローマ人への手紙13.12)

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※上記歌詞の訳詞は既訳を参考にしながら、小林えみ が翻訳しました。you が単数なのか複数なのか、などの細かい判断は公式の確認をとったものではなく、前後をふまえての小林の判断とご理解ください。

 

よはく舎newsまとめ(2017~2020年)

よはく舎の2017~2020年の活動をまとめています。

*2020/12/01 【新規事業】マルジナリア書店(分倍河原)をプレオープン

 

*2020/11/22 【司会】小林えみ/オンライン開催・図書館総合展おまけ会

 

*2020/11/20 【ゲスト講義】小林えみ/専修大学教養科目「サブカルチャー論」にて「出版文化の現在」

 

*2020/09/25 【書籍刊行】

www.hanmoto.com

 

*2020/10/05-16 【商談会】「書店向けWeb商談会 2020秋」参加

 

*2020/10/04 【商談会】「すずきたけしの「書店員お悩み相談会」in書店向けWeb商談会 2020秋 前夜祭」開催

 

*2020/09/26 【イベント開催】「読書会 わたしたちの好きな雨宮まみさんの本たち」@GOTTA九段下

  

*2020/09/25 【書籍刊行】

www.hanmoto.com

 

*2020/08/17 【イベント開催】「元サッカー少年書店員の愉楽と憂鬱」@GOTTA九段下

 

*2020/08/01 【イベント開催】「美しい本をつくる現場の技術」@GOTTA九段下

 

*2020/07/10-11 【イベント開催】ブックフェア「ちいさないきつぎ」@GOTTA九段下

 

*2020/07/10-11 【イベント開催】ブックフェア「ちいさないきつぎ」@GOTTA九段下

 

*2020/05/15-20 【イベント開催】ブックフェア「ちいさないきつぎ」@GOTTA九段下

 

*2020/05/15 【インスタライブゲスト】ココシバさんInstagram

*2019/12/22 【イベント開催】「ヘーゲル(再)入門ツアー 2019→2020」 川瀬和也

*2019/10/06 【イベント開催】『西周と「哲学」の誕生』『西周 現代語訳セレクション』『在野研究ビギナーズ:勝手にはじめる研究生活』トリプル刊行記念—–やっぱり知りたい!西周リターンズ&在野ビギナーズ—– 石井雅巳

*2019/08/31 【講師】小林えみ/浄土複合ライティング・スクール2019にてゲスト講師

*2019/08/24 【イベント開催】「『概念工学』入門ツアー:推論主義から社会変革の哲学へ」松井隆明 サマーキャンプ(集中講義)

*2019/06/29 【イベント登壇】小林えみ/戸田市男女共同参画フォーラム「出版界で活躍する女性たち」にて講演

*2019/06/07 【イベント登壇】小林えみ/CONFERENCE "NATURE TECHNOLOGY METAPHYSICS" (JUNE 6 & 7, 2019)にてスピーチ(記事公開)

*2019/05/28 【イベント登壇】小林えみ/日本出版学会出版編集研究部会「独立系出版社の編集デザイン」にて上田宙氏、宮後優子氏と登壇(記事公開)

*2019/04/20 【イベント登壇】小林えみ/『なぜオフィスでラブなのか』刊行記念トークイベント「職場と時代と女と男」 rebelbooks(高崎市

*2019/03/10 【イベント登壇】「哲学者と編集者で考える、<売れる哲学書>のつくり方」に小林えみが登壇 配布資料がマガジン航にて公開「所感:2010年代の日本の商業出版における著者と編集者の協働について、営業担当者と書店との協働について」

*2019/03/10 【イベント開催】「ヘーゲル(再)入門ツアー 2019 東京編」川瀬和也 

*2019/03/03 【イベント登壇】「話題の編集者と考える本のこと~第1回なぜ今、本を読むのか~」に小林えみが登壇 週刊読書人にて記事公開

*2019/03/03 【フェア/選書】「話題の編集者と考える本のこと~第1回なぜ今、本を読むのか~」にて選書

*2019/01/24 【ゲスト講義】小林えみ/早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系

*2018/09/01 【イベント開催】nyx×GACCOH「マルクス現代社会」東京編 斎藤幸平

*2018/07/16 【フェア/選書】ときわ書房志津ステーションビル店さんフェア企画「第4回ときわ志津佐倉文庫フェア「「愛」についてのこの1冊」に選書参加(坂口安吾『青鬼の褌を洗う女』)

*2018/07/14 【イベント登壇】「『NO BOOK NO LIFE -Editor's Selection- 編集者22人が本気で選んだ166冊の本』刊行記念ブックトーク!」に小林えみが登壇

*2018/06/30 【フェア/選書】小林えみ/『日本のヤバい女の子』(柏書房)の刊行記念フェアにて選書

*2018/06/20 【出版/選書】小林えみ/『NO BOOK NO LIFE -Editor's Selection- 編集者22人が本気で選んだ166冊の本』(雷鳥社)に選書が収録。

*2018/05/20 【イベント開催】nyx×GACCOH「やっぱり知りたい!トマス・アクィナス -はじめてのスコラ哲学- 」

*2018/04/07 【イベント開催】nyx×GACCOHレクチャー 「マルクス・ガブリエル入門」浅沼光樹

*2018/03/13 【イベント登壇】「ママ起業家プレゼン mi ra i 2018@TOKYO創業ステーション」 トークセッションに小林えみが登壇

*2018/03/13 【イベント開催】「小規模出版社のしごと」にて、小林えみ 講演

*2018/02/10 【イベント開催】GACCOH全国出張版「やっぱり知りたい! 技術と哲学の臨界点」東京編 セバスチャン・ブロイ

*2017/12/16 【イベント開催】nyx×GACCOHレクチャー「マルクス現代社会」斎藤幸平 開催

*2017/10/21 【イベント開催】オーサービジット@東京堂書店「書店を著者と巡る」江川純一×佐々木雄大「聖なるものを読む」

*2017/10/01 【イベント開催】オーサービジット@東京堂書店「書店を著者と巡る」藤田直哉×長瀬千雅「アートフェスを読む」

*2017/08/26 【イベント開催】オーサービジット@東京堂書店「書店を著者と巡る」都甲幸治×下平尾直「狂喜の読み屋と世界文学を読む」

*2017/08/23 【イベント開催】「独立系女性版元の はたらきかた」
レポート記事「女性たちが「1人出版社」を起業した理由

*2017/08/20 【イベント開催】オーサービジット@東京堂書店「書店を著者と巡る」戸谷洋志 「哲学としてのポップカルチャーを読む」

*2017/08/13 【イベント開催】オーサービジット@東京堂書店「書店を著者と巡る」河野真太郎×伊澤高志「英文学と恋愛を読む」

*2017/08/01 【展示】-09/ 写真・北原徹「scholars」東京堂書店 階段スペース

*2017/07/16 【選書】-09/03 小林えみ/ときわ書房志津ステーションビル店さんフェア企画「第3回ときわ志津佐倉文庫フェア「若き人(あなた)に勧めるこの1冊」に選書参加(キャサリンマンスフィールドマンスフィールド短編集』)開催

​*2017/07/15 【イベント登壇】小林えみ/『POSSE』vol.35刊行記念イベント「学生がつくる働き方雑誌の続く理由」/時間:15時~/会場:しばしば舎/詳細

*2017/07/08 【イベント登壇】小林えみ/絵本『ウラオモテヤマネコ』トークイベント/時間:19時~/会場:ブックスキューブリック箱崎店/詳細

*2017/06/11 【選書】小林えみ/-06/18 井上奈奈個展「誰も知らない話  12冊 × 12人 本とアートの間より」(ギャラリー枝香庵/銀座)に選書参加(アンナ・カヴァン『氷』)

学術翻訳書の翻訳のあり方について(朱喜哲氏によるツイート転載)

2020年10月にロバート・ブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』(上・下、勁草書房)を共訳された朱喜哲(ちゅ・ひちょる)さんが、学術翻訳について2020年10月24日にツイートをされました。学術翻訳の翻訳の進行についてなど、多くの研究者へ示唆に富む内容であったため、ご本人の許可を得て転載、nyx編集担当による、版元の立場からのコメントを付させて頂きました。

朱喜哲氏所感

(以下、連続ツイートを転載)
それにしても学術書翻訳を初めて体験して、過去のあらゆるタイプの仕事のなかでも(自分たち自身の)要求水準を満たす難易度がもっとも高く、ひとえに自分の勉強と日本語哲学への貢献以外にはインセンティブもない仕事なので、あらためてこれだけ翻訳を重ねて来た先人たちへの敬意を新たにしました。

評価は読者に委ねるほかありませんが、今回やってみて学術書翻訳は「①同書の原語での議論状況をフォローできている人」複数が「②対等にレビューしあえるチーム体制」で臨むのがよいなと感じました。その点で、博士後期〜初期キャリアの研究者がチームを組むのがいいと思いますが、いくつか問題も。

ひとつに出版社とのアクセスが限られる点で、これは機会平等の観点はもちろん、アクセスを持つ一部の人が<若手>に下訳を振る構図を生みがちで、場合によっては「搾取」とまで言えそうなケースも知っています。また総じて翻訳の業績評価が低い(複数人の場合はなおさら)ことも逆インセンティブ要因。

翻訳書の質・量的な充実は、当該分野の裾野の広がりを象徴する指標で、哲学の場合には過去、つまりちょうど退官される時期になった団塊世代の先生方の業績量を思うと、今後ここが痩せ細っていくことは残念ながら避けがたいですが、それだけに優れた訳業を業界で顕彰するとか、価値を高めたいですね。

日本翻訳大賞」みたいな活動によって、わたしも手に取る文学系の訳本が増えましたし、業界内の評価が広く可視化されるのは読者にも後進にとっても、極めて有益だと思います。学術書の訳業の評価は、文学とはまた違ってしかるべきですし、選評とかも聴いてみたいところ。


小林えみ所感

 技術書や科学、どんな分野でも翻訳は簡単なことではないと思いますが、とりわけ人文系の学術書翻訳はとても手間のかかる作業のように思います。まず書かれた言語についての理解が必要なことは他分野とも共通のこととして、確定的な事実(例:AさんがB市で〇月〇日講演をした)や数式とも異なる、論理的ではあるけれども、ある種の不確かさも含んだ人の思考を、別の言語(日本語)で、その界隈の日本語の術語も把握しながら、また、ときには元の言語では共有されている文脈や事実関係を補完しなければいけません。西洋哲学思想界隈では欧文からの翻訳が多いですが、欧米圏内もひとくくりにはできないとはいえ、英語をフランス語に翻訳やドイツ語を英語に翻訳するより、日本語というまったく違う言語圏への翻訳は、より大変だということは想像にかたくありません。日本では欧米語のまとまった翻訳の緒をひらいた西周をはじめ(『西周と「哲学」の誕生』をご参照ください)そのような仕事が脈々と積み重ねが、現在の日本での哲学思想の発展に寄与してきました。
 しかし、辞書もないなかで手探りの翻訳をしていた時代もその大変さはあったとはいえ、現状の研究者が置かれている研究以外の校務の多さ、また日本語ネイティブ人口減少(ありていにいえば読者人口の減少、興味関心か否かの問題ではない全体的な売上減少のトレンド)の中で、研究者、また商業出版の版元が、どのくらい「翻訳出版」に力をそそいでいけるかは、昔とは違う困難をかかえ、非常に悩ましいと言わざるを得ません。
 朱さんがお書きになられたように、「要求水準を満たす難易度がもっとも高く」、それでいて「自分の勉強と日本語哲学への貢献以外にはインセンティブもない」。素晴らしいお仕事に版元が経済的なインセンティブを付与することができれば、なお良いことだとは思いますが、上記のトレンドの中ではいずれの版元においても「十分な」お支払、経済的な報いは難しい、というのが率直な現状でしょう(もちろん、例外はあるとして、一般的には)。
 支払が十分とはいえない、ということについては、経費負担として翻訳には原著への翻訳権料の支払いとの兼ね合いもあります。原著への尊敬と尊重は必要ですが、専門度の高い書籍において、文芸や一般書とも共通する相場や契約の文言は見合っているのだろうか、と考えることもあります。ありていにいえば学術の翻訳の契約料はもっと安価で長期間の保証があってもいいように思います。ただし、期間については、事実上の絶版が他社で契約できない、というような弊害をさけるために、長期契約の場合は独占の事項は外す、などが考えられます。
 朱さんが提議された「学術書の訳業の評価」も、時折話題にあがることですが、こうしたことは学術界隈、また出版など関連業界において、真剣に検討はできることだと思います。
 厳しい研究・社会状況の中で、研究者の方たちの方たちが 労苦をひきうけ、世に出された成果は、必ず世の役にたつでしょう(学術の成果が端的な有用性を基準とすべきか、という点は一旦措くとして)。翻訳書が日本語で刊行される意義を、その成果を正当に評価しつつ、今後、その制作環境や評価について、また頒布のされ方について、訳者・版元・読者をまじえ、さらに議論が広がることを願っています。

ロバート・ブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』(上・下)加藤 隆文/田中 凌/朱 喜哲/三木 那由他
プラグマティズムは死なず! 分析哲学ドイツ観念論を経由して、過去から現在に至るプラグマティズムを生き生きと蘇らせる。

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第41回「石橋湛山賞」受賞 山本章子氏インタビュー

2020年9月25日に発表された第41回「石橋湛山賞」を『日米地位協定――在日米軍と「同盟」の70年』(中央公論新社、2019 年5月刊)で受賞された琉球大学人文社会学部准教授・山本章子さんにメールでのインタビューを行いました。(インタビュー収録:2020年9月30日)

 石橋湛山賞の受賞、おめでとうございます。本書刊行後に、中公新書さんのウェブサイトでインタビューも公開されていますので(2019/11/07著者に聞く 『日米地位協定』/山本章子インタビュー)、ご執筆の経緯などはそちらにゆずるとして、もう少し細かい部分や、その後について、今回はお伺いさせてください。
 2017年に博士論文を書籍化された『米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞)と書き下ろしの『米国アウトサイダー大統領――世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)を刊行されてから、2年後の2019年に『日米地位協定』を刊行されておられます。短期間で非常にすばらしいお仕事をされておられますね。

山本 2017年に単著を2冊書き、2019年に3冊目の単著となる『日米地位協定』を出したのは主に就職のためです(笑) 現在は研究者の就職状況が非常に厳しい。特に大学に専任教員として就職するのは狭き門で、私の専門分野である国際関係論の研究者はシンクタンクで働く方も増えています。研究者の就職は基本的に業績で決まるので、とにかく業績を増やすことに必死でした。
 私の場合、出版社の仕事をへて35歳で博士号をとったので、人より抜きんでた業績がないと就職できないと思い、学会誌掲載論文や共著論文と並行して単著の執筆にも取り組みました。結果的には、『日米地位協定』を書いている最中に現在の勤務先への就職が決まりましたが。

 石橋湛山賞の受賞は周囲からの祝福の声は多くあったかと思いますが、ゼミの学生さんたちなどからも反応がありましたでしょうか。

山本 沖縄には沖縄タイムス琉球新報という地元紙があり、その二紙が受賞を報じてくれたので、記事を見た学生が卒業生も含めて祝福のラインをくれました。

 卒業生の方も、先生のご活躍が嬉しかったのでしょうね。勉強中の学生さんの励みにもなったことと思います。ご自身の学生時代に関して、中公新書のインタビューで「すでに学部と修士課程で外交史の手法を身につけた後だったので、専門を変えませんでした」とお答えになられています。途中で手法・分野を移動することの大変さもあるからだとは思いますが、外交史の面白さや魅力をお感じになられていたからかと拝察いたします。法学・政治学・政治哲学ではなく「史学」、歴史を扱うことの魅力などがあれば教えて下さい。

山本 私の場合、現代史が専門なので、歴史といってもまだ当事者や関係者が生きている、つまり現在にそのままつながるテーマを研究しています。現代史というのは、現在進行形の事象を分析するのではなく、その起源や現在に至る経緯を分析する学問だと思います。いま起きていることを背景や紆余曲折も含めて総合的に見るというのは、問題を指摘するときには不可欠な作業だと思います。

 安倍前政権において「公文書の廃棄」が問題となりました。その後、様々なイシューがあるなかで、一般の関心が薄れているように思います。ただこれはその事件だけということでなく、歴史性に対して問題があると思うのですが、何かお考えがあればおきかせください。

山本 そもそも、戦後日本の官僚や政治家が公文書の保存に熱心だったことはほとんどありません(笑)外務省は外交史料館をつくって、他省庁に比べればきちんと公文書の管理をしていますが、日米安全保障条約や日中国交回復に関する公文書は、破棄や書き替えがあったと言われています。
なので、いかに日本政府の公文書を当てにせず、新聞、当事者・関係者へのインタビュー、外国政府の公文書などありとあらゆる情報をかき集められるかが大事になります。逆にいうと、公文書を廃棄しても事実の完全な隠ぺいはできないので、ばれたら問題になるようなことはしない方が政府のためじゃないでしょうか(笑)

 2020年9月24日、毎日新聞「月刊・時論フォーラム」で「利害より倫理」を発表されておられます(毎日新聞「月刊・時論フォーラム 利害より倫理」、リンク先は有料記事)。
 さまざまな人的理不尽が「利害関係」をもとに生まれることに対して、それをチカラで封殺することはできたが、そもそも「倫理」が必要ではないか、ということを提示されておられます。もう少し具体的にどのような倫理を求められておられるのか、教えて下さい。

山本 そんなに難しいことではなく、一歩間違えば学生の一生を台無しにしかねないようなことをした指導教官に対して、その後も同様の被害にあう学生が出ないように大学が措置を講じるべきだと考えています。私が在籍した大学の学科は、一人ではなく複数人の指導体制をとったり、相談員制度をもうけたり、元の指導教官の許可なしに指導教官を変えることができるようにしたりしています。それでも、指導教官が自分以外の言うことを聞かないよう学生に強制したり、相談員が同じ学科の教授陣で同僚をかばう発言をしたりということがありました。何より、指導教官と学生の間に起きたことを一切公表しない。どうせ狭い大学内で人づてに名前は伝わりますから、起きたことは匿名で公表して記録にも残し、教員にも学生にも注意喚起をすべきです。

 現政権が高齢男性ばかりであることが批判されており、単純にその属性だから問題、ということではなく、似たような属性の人が意思決定機関に集中することでの判断の偏りが懸念材料とされているのだと思います。

山本 所属している国際政治学会は女性が多く、理事長はじめ重要ポストにもふつうに女性がつきます。また、学会年次大会の部会・分科会や科研の共同研究でも、年齢バランスやジェンダーバランスは偏りがないように考慮されています。というか、年齢やジェンダーのバランスが悪い研究企画は、いまは審査で落とされます。そういう場では、ハラスメントを行う研究者は自然淘汰されていくのか、不愉快な経験をしたことはそんなにありません。
 なので、年齢やジェンダーエスニシティや出身地、キャリアパスなどの多様性を組織の構成条件にすることは、ハラスメントを防ぐためにとても重要だと思います。

 今回の受賞作も含め、日米関係について、史料に基づき深く、一方で明解に歴史的な意味を鮮やかに見せて下さる成果にとても注目しております。今後については、中公新書のインタビューで「次は1970年代末、米ソのデタント(緊張緩和)が崩壊し、新冷戦に向かう時期の日米関係を研究したいと考えています。」とお話されています。こちらもとても期待しています。個人的には論文「アイゼンハワー政権の対ソ文化交流:クラシック音楽を事例に」も少し他とは違うテーマで面白く拝読いたしました。こうした文化についてなど、またお書きになりたいな、ということなどありますでしょうか。

山本 今後研究したいテーマはいろいろあるのですが、7年半住んでいる沖縄とその周辺では日々、日米安保に由来する様々な問題が起きており、他人事ではいられない場面も増えてきました。他のテーマにいくまえに、日米地位協定の問題をさらに深めて考察しないといけなさそうです。

 大学にご所属の研究者は「教育・後進育成」もお仕事のひとつかと思います。教育に関して、何かお考えはありますでしょうか。

山本 沖縄は観光や地方自治日米安保などさまざまな問題の最前線なので、沖縄の大学生には本を読むことに加え、学生時代しかできない、現場を目で見て当事者の話を聞いて考える貴重な機会をたくさん持ってほしいと思っています。なので授業では、フィールドワークや基地見学、国会議員や官僚や県庁職員の講演などさまざまな企画を実施しています。

 現在、沖縄に関してテーマにされているということもあり、ご所属も含めて日本・沖縄という土地との結びつきは研究上の必然もおありかもしれませんが、「日本語」圏内での活動にとどまらず、国際的な共同研究や発表の場などの発展をお考えであれば、差支えない範囲で教えて頂けますでしょうか。

山本 沖縄は、米軍基地に由来する問題で世界中から注目されていますので、海外からさまざまな研究者が視察や意見交換で訪れます。それで自然と、国際的な基地問題の比較研究プロジェクトに呼ばれたり、海外で沖縄の基地問題について発表する機会を与えられたりしています。

ありがとうございました。今後ますますのご活躍を期待しております。

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『日米地位協定――在日米軍と「同盟」の70年』(中央公論新社、2019 年5月刊)

山本章子
1979年北海道生まれ。2003年一橋大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。2007年から2012年まで第一法規株式会社に編集者として勤務、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖縄国際大学非常勤講師を経て、2018年から琉球大学人文社会学国際法政学科講師、2020年より同准教授。専攻は国際政治史。

著書/共著
米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞)
米国アウトサイダー大統領――世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)
共著『沖縄と海兵隊――駐留の歴史的展開』(旬報社、2016年)
共著『日常化された境界――戦後の沖縄の歴史を旅する』(北海道大学出版会、2017年)

#NYNJ本 の推薦!

2020年9月発売の『NO YOUTH NO JAPAN』vol.1に頂いた推薦やご感想をご紹介します!
まだお読みではない方はぜひ全国の書店さんでお求めください。
(書店店頭にない場合も「版元在庫はある」のでご注文可能です!)

NO YOUTH NO JAPANは若者向けメディアのあるべき姿の1つだと思う。若者の投票率が低いのは、僕たちが無関心だから? それとも、政治や社会問題に関する情報が僕たちの所に来てくれないから? 僕の生活圏に自然と流れ込んでくるこのメディアに触れるとそんな疑問が生まれます。祝1周年!
Kan(Netflixクィア・アイ in Japan!」エピソード2主人公)
"Don't boo. Vote." これはアメリカのオバマ元大統領の言葉。「不満を言うなら、投票しよう」。でも日本ではまず政治に「不満を言う」ここから始めていきたいなと思います。「なんで学費高いの?」「年金どうなるの?」もっと対等に疑問を持っていい。私たちは主権者なのだから。わからないことはNYNJに聞いちゃおう。知ることで、変えられる未来がある。信じてみて。
疋田万理((株) SPICY代表 / mimosas代表)
「若者のニュース離れ」という言葉がありますが、実態は「ニュースの若者離れ」です。若者が見ているソーシャルメディアに十分な量の信頼に足るニュースが流れていない。変化の速度を増す社会を、より良い方向に進めていくためには、課題を知り、解決法を考えていくことが不可欠です。まだ小さくとも、NYNJのような取り組みがその一端を担っているし、伝統的なメディアに変化を促す力ともなるでしょう。
古田大輔(ジャーナリスト/メディアコラボ代表)

ときわ書房志津ステーションビル店さんには、 #本日の注目本 に選んで頂きました!
「政治がタブーの時代は終わった。日本の未来を担うのは若者だ。ニヒリズムなんかいらん。我々大人は若者の声に耳を傾ける義務がある。そしてこの本のシンプルさに目から鱗を剥がそう。シンプルでいいんだシンプルで。若者が変われば大人も変わる。」2020年9月19日

大阪!toi booksさん。NO YOUTH NO JAPANの活動が気になる、という方はtoi booksさんの書棚、すごい刺さると思います。
インフォグラフィックによって、政治の話へのとっかかりや入り口を見せてくれる活動がまとめられた一冊。これからを考えるきっかけをくれる本です。」2020年9月20日

谷中のすてき本屋、ひるねこBOOKSさんは北欧関連の書籍もそろえておられますので、NYNJメンバーが運営する「わたしたちの北欧がたり。」ファンのみなさまもぜひお立ちよりください。
「投票に行かなければ変わらない。投票すれば変えられる。もう「これだから日本は……」で終わりたくない。この手のひらサイズの小さな本に、U30世代の未来が、日本の将来が詰まっている。いつでも政治をポケットに入れて。」2020年9月16日


9月27日10:30~本のまち八戸ブックフェスミニにて『猫のミーラ』を紹介!

年に一度の「本のまち八戸ブックフェス」。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策を行いながら、9月27日に規模を縮小、「本のまち八戸ブックフェスミニ 2020」として開催されます。

その配信トークイベントにて、よはく舎『猫のミーラ』について、ご紹介をさせて頂きます!

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当日は、会場内の大型ビジョンで投影。
私は東京から八戸にオンライン上にてお伺いさせていただきます!

会場では『猫のミーラ〔通常版〕』、『猫のミーラ〔特装版〕』、『NO YOUTH NO JAPAN』vol.1 の3点も販売していただきます。

当日は、井上奈奈さんの作品について、藤原印刷さんでの印刷についてなどお話させて頂きます。

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何か事前にご質問などありましたらツイッターやメール(yorunoyohaku【@】gmail.com)などへお気軽にお寄せくださいませ。

八戸近隣のみなさま、八戸ブックセンター(の映像)にてお会いしましょう!

代表 小林えみ

書籍即売会《We love 藤原印刷!》 in よはく舎 開催のお知らせ

追記:
効果のある/なしの境界線 のミニ展示を行います! 今年、2020年1月に藤原印刷さんが平和紙業さんのギャラリーで開催して大盛況となった、「功かのある/なしの境界線」展。こちらの縮小版展示です。見逃した方はぜひ!
束見本の販売も行います! さまざまな書籍の原型、あるいは市場にでなかった白紙の本たち。大小サイズ問わず、一律500円で販売します。
ウェブ販売実施! 開催期間中、会場のウェブカメラをずっとオンにして、遠方の方でも来場者と同じように書籍をご購入頂くことができます!コメント等で「この本をアップで見せてほしい」「解説してほしい」などのリクエストも回答できます。

丁寧な「心刷」で評判の印刷所、藤原印刷さん。昨年は松本の自社工場を解放して、印刷所見学と書籍即売を行う、本のお祭りを開催されました。

とても楽しいお祭りで、藤原さんとも「来年(2020年)もぜひ!」という話をしていたのですが、皆さんご存知のように、現在はコロナ禍がまだ収束していません。春先に藤原さんから「今年は開催はむずかしいかもしれません」というお話を聞いていましたが、夏、正式に社内ではとりやめを決定された、というお話をお伺いした時、もう少し小規模で、気を付けながらの「心刷祭」の御礼イベントが開催できないかな、と考えました。

それが、「We love 藤原印刷!」です。「心刷祭」にご家族連れなどでお越し頂いた長野の藤原印刷ご近隣の方々は、ご参加がむずかしくなるため、申し訳ないのですが、東京から人が押し寄せるより、リスクは少ない形で開催を考えました。オンラインでのご紹介などでなるべく一緒に体験やお買い物をしていただけるようにいたします。もちろん、長野以外の全国からの参加も歓迎です!

《日時》
2020年10月16日(金)15時~20時
2020年10月17日(土)11時~19時
《会場》
 千代田区九段南2-2-8松岡九段ビル201 GOTTA九段下(mineO-sha)
九段下駅2番出口から徒歩4分、千鳥ヶ淵の端に面した築91年の近代建築ビルです)
《ご来場に関して》
入場無料、出品されている書籍類は購入することができます。
予約なしのご来訪も歓迎ですが来場者が多数となった場合には、入場制限をさせて頂きます。
その場合、予約の方を優先入場とさせていただきますので、下記、事前の入場予約(無料)をお願いします。
優先入場の場合に、予約者の方がご指定の時間にご連絡なく15分以上遅れている場合は、会場が予定人数の満員に達した場合、外でお待ちいただき、順番に会場内へご案内いたします。
《当日の感染症対策について》
検温、手指消毒、マスク着用のお願い、体調チェック確認書のご提供をお願いいたします。確認書は第三者への勝手な提供はせず、2ヶ月で廃棄いたします。

《予約画面》

連絡先 yorunoyohaku(@)gmail.com
主催:よはく舎、協力:藤原印刷

We love 藤原印刷なかま(50音順、これから増えます!)
青山ブックセンター本店aptp books京都文鳥社ケイタタ友田とんBook&Design本屋lighthouseメディアサーフコミュニケーションズよはく舎

「We love 藤原印刷なかま」や当日の展開書籍、ミニイベント、オンライン配信の内容などはまた追ってお知らせさせて頂きます。
お楽しみに!

藤原兄弟と私

▲小林えみ with 藤原兄弟、2019年心刷祭にて!

《藤原印刷プロフィール》
1965年創業のタイプライター1台から始めた印刷会社。「心刷」を企業理念として、組版・スキャニング・画像補正・製版・印刷・製本・加工等にとどまらず、展示会やイベントの企画を行う。
2018年からはPrinting Teller Book Service(PTBS)という印刷会社による本の販売サービスを開始。2020年には、PTBSのオンラインショップの開設及びセルフパブリッシングの作品の新刊メールマガジン配信サービスを開始。

《心刷とは》
創業者である藤原輝が、当時タイプライターで心を込めて一文字一文字を打ち込み、一冊一冊大切に本を作ってきたことを、心で刷る= “心刷”という言葉で表現し、会社の理念として掲げました。あらゆるものがデジタル化された現在も、全社員が“心刷”の精神を引き継ぎ、心を込めて作品と向き合っています。