斎藤幸平氏ドイッチャー記念賞受賞御祝・コメント

大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』は斎藤幸平氏の»Karl Marx's Ecosocialism: Capitalism, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy«, Monthly Review Press, 2017 の邦訳増補改訂版です。同書はマルクス生誕200周年である2018年のドイッチャー記念賞(Deutscher Memorial Prize)を受賞しました。
ドイッチャー記念賞は1年に一度「最良かつ最もイノベーティヴな著作(英語作品)」に与えられるマルクス研究界最高峰の賞です。過去にはデヴィッド・ハーヴェイ、エリック・ホブズボーム、マイク・デイヴィスなど世界で活躍する研究者が受賞しています。その栄誉ある賞を斎藤氏は日本人初、歴代最年少で受賞されました。
その受賞に対し、さまざまな方からお祝いが寄せらました。ここにそのお名前、コメントを掲載いたします。

(50音順、敬称略)
伊澤高志(立正大学准教授)斎藤幸平さんのことは以前から存じ上げており、とても優秀な若手研究者であることはわかっていたのだが、その斎藤さんがドイッチャー記念賞を受賞したと聞いた時には、「へえ、さすがだなあ」くらいの感想しか抱かなかった。ドイッチャー記念賞を知らなかったのである。で、調べたところ、すごい賞だった。とんだ失礼をしたものである。英文学研究に携わる者のひとりとして、あのテリー・イーグルトンと同じ賞を受賞した斎藤さんには、もう頭が上がらないと思った。でも、会えば親しく接してくれるので、嬉しい。おめでとうございます。ますますのご活躍を。
磯前大地(くまざわ書店八王子店)

岩熊典乃(大学教員)
岩佐茂(一橋大学名誉教授)
 斎藤幸平さんの“Karl Marx’s Ecosocialism”がドイッチャー賞を受賞したとお聞きしました。ドイッチャー賞は、ハーヴェイら、英語圏内の著名なマルクス研究者に贈られてきた賞ですので、斎藤さんの仕事も国際的に高く評価されたのだと思います。斎藤さんの仕事は、新メガやマルクスが生きた時代の思想状況を踏まえた研究ですので、明らかに、マルクスエコロジー研究を一段高い水準にひき上げました。十分に国際的な賞に値する研究です。マルクスエコロジー研究にたずさわっている者として、斎藤さんの研究が評価され、受賞されたことを喜びたいと思います。
チャールズ・ウェザーズ(大阪市立大学教授)Saito-sensei, Congratulations on your award! We await your next book!
江原慶(大分大学経済学部准教授)斎藤さんと私の出会いは必ずしもcheerfulなものではなかったのですが(笑)、その後斎藤さんの学問的な熱意やお人柄に触れ、今では最初の印象と随分変わっています。私などでは及びもつかない八面六臂のご活躍で、恐れ多いと思いつつも、同年生まれのよしみで勝手に友だちだと称しています。
 日本ではマルクスは、マルクス経済学といわれる、経済学の領域が中心となって受け止められてきました。斎藤さんはそれに対して批判的なお立場だと思いますが、斎藤さんの成果が、日本の研究蓄積を批判的に包摂し、新しい領域を切り拓くマイルストーンになることを確信しています。
 国際的に評価の高い斎藤さんの業績が、ついに日本語で読めるようになります。しかも、本人の手による、より充実した内容で。彼のおかげで、これからどんどんマルクスをめぐる論壇は面白くなっていくでしょう。私も楽しんでいきたいと思います。
大河内泰樹(一橋大学教授)日本のガブリエル、斎藤君のドイッチャー賞受賞、当然とも言えますが、ここからまた今後ますます羽ばたいてくれるものと期待しています。おめでとう!
岡崎佑香(ヴッパタール大学博士課程)ドイチャー記念賞授賞、おめでとうございます。基となったドイツ語版や博士論文、ひいてはそれを可能にしたMEGAの編集などを通じて斎藤さんたちがマルクス研究に果たしてこられた貢献が、国際的に高く評価されましたこと、心からお慶び申し上げます。
岡崎龍(フンボルト大学ベルリン博士課程)受賞おめでとうございます。今後も世界史的個人として活躍してください。
柿並良佑(山形大学講師)著書刊行および受賞、おめでとうございます。これからも新たな時代の思想を切り開いていってください。
河野真太郎(専修大学教授)
エコロジーというのは、単に人間の生産活動から切りはなされた「自然」を守るということではありません。それは生産と消費という人間活動に「自然」 も算入して、その全体性を思考することです。
 私はこのことを、イギリスの作家・文化批評家レイモンド・ウィリアムズの後期の著作(『2000年に向けて』など)で学びましたが、本書に出会って、「物質的代謝」の概念を軸に、マルクスの思想全体をそのような意味でのエコロジー思想として読んでいくその鮮やかさに興奮しました。本書は専門的なマルクス研究にとどまらず、私のように文化論を生業とする者にとっても、非常に豊かなフィールドを開いてくれるものです。
 そのような本書が栄誉あるドイッチャー賞を受賞されたことは、斎藤さんご本人にとってだけでなく、日本の学術コミュニティと、ひいては日本社会全体にとって慶賀すべきことだと思います。おめでとうございます。受賞をきっかけに、本書が有益な形で受容されていくことを願っています。
斎藤哲也フリーランス編集者&ライター)斎藤幸平氏の論稿や訳業を目にするたび、単著邦訳版を早く読みたいと心待ちにしてきた。しかも、ドイッチャー記念賞受賞というのだから、期待はいやがおうにも膨らむばかり。この10連休の課題図書は『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』で決まりだ!
酒井隆史大阪府立大学教授)
佐々木雄大日本女子大学人間社会学助教
佐々木隆治(立教大学経済学部准教授)
斎藤くんの新著は間違いなく、これまでのマルクス研究のなかでも最も水準の高いものの一つであり、私の中ではベスト。五年ほど前に本書のもとになった博論の草稿を読んだ時の衝撃が忘れられない。改めてドイッチャー賞受賞、おめでとう!
鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
田中東子(大妻女子大学文学部教授)
中山永基(岩波書店編集者)
いち早く世界で評価された斎藤さんが切り拓く理論的地平は、日本を生きる私たちの日常とつながってるーーそのことを待望の新著『大洪水の前に』で体感できるはず。
西亮太(中央大学法学部准教授)
研究者にとって世界は解釈するだけでは不十分であり、むしろ世 界を変えていかねばならないのだとすれば、地道な文献学的探求の成果の上にこれまでとは異なったマルクスを打ち立てる本書は、変革に向けられたものなのだと思います。本書が広く読まれ、議論を起こし、大きなうねりの発端となることを楽しみにしています。ご出版、おめでとうございます。
藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事権威あるドイッチャー賞の受賞おめでとうございます。日本のマルクス研究の水準の高さを改めて示す功績に敬意を表します。
私たち社会活動家、ソーシャルワーカーも先駆的なマルクス理論研究に実践や運動が負けないように、今後も取り組んでいきます。
百木漠(立命館大学専門研究員)ドイッチャー記念賞受賞、素晴らしい快挙と思います。今後も益々のご活躍を期待しております。
結城剛志(埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授)今年の最良の一書です!
若森みどり(大阪市立大学教授)私は、カール・ポランニーを研究してきた。本書には、20世紀前半のポランニーが嫌悪し距離を置いていたような「教条主義的で決定論的なマルクス主義」とは全く異なる、マルクス自身の試行錯誤の思想形成が活き活きと現れている。マルクスの国際的な研究拠点やそのネットワークのなかで鍛えられ、若くして世界を代表するマルクス研究者となった著者 斎藤幸平氏。斎藤氏によれば、国際的なマルクス研究プロジェクトの方針も揺れ動いてきたが、ようやく、マルクスの晩年に格闘していたテーマ(「抜粋ノート」)が、現在刊行中の新MEGA第4部門に収録されることになった(斎藤氏は、その新MEGA第4部門の編纂プロジェクトに関わっている)。本書は「抜粋ノート」を使いながら、資本主義が生みだした資本主義を超える「大洪水」――1%の富者は危機を脱出する準備をおそらく始めているが、99パーセントの人間は取り残され、生存基盤を失うような、「自然と人間の物質代謝の破壊」――の問題に、晩年のマルクスが挑んでいた姿を見事に浮かび上がらせる。労働(これもまた人間活動の一部である)だけでなく、自然、土地、資源の資本主義的な収奪は、自然破壊や人間の破壊を起こしている。それと同時に、それを解決するための新たな技術革新や市場の仕組みを作り、資本主義がつくりだす問題自体さえ、資本主義の原動力となる。そのような資本主義は、地球が破壊されることが明らかになったとしても、「痛み」を感じることはないシステムなのだ。本書のもともとのドイツ語版は、英語版でも刊行され、そして国際的に優れたマルクス研究に贈られるドイッチャー賞を受賞した。斎藤幸平さん、受賞、および日本語版の刊行、おめでとうございます。日本のマルクス研究も、またマルクス受容も、大きく変わっていくと思います。

「新たな時代のマルクスよ/これらの盲目な衝動から動く世界を/素晴らしく美しい構成に変へよ/宮沢賢治