historicalmaterialismとドイッチャー記念賞

11月8日にロンドンのSOAS(東洋アフリカ研究学院)で『大洪水の前に』斎藤幸平さんのドイッチャー記念賞(Deutscher Memorial Prize)受賞記念講演です。
ドイッチャー記念賞は過去にデヴィッド・ハーヴェイやエリック・ホブズボーム、テリー・イーグルトン、ロバート・ブレナーらが受賞した非常に権威ある国際的な賞です。斎藤さんはマルクスエコロジー論が末節ではなく、経済学批判において体系的・包括的に論じられる重要なテーマであると明かし、マルクス研究としてだけでなく、資本主義批判、環境問題のアクチュアルな理論として世界で大きな評価を獲得、2018年のマルクス生誕記念イヤーにマルクス研究界最高峰の賞、ドイッチャー記念賞を31歳(受賞当時)の史上最年少で日本人初の受賞をしました。

historicalmaterialism(邦訳すると史的唯物論)はマルクス研究を中心とする学会としては世界最大の団体であり、Versoの編集者セバスチャン・ブゼンが中心となって創設されました。ドイッチャー記念賞の事務局とは異なる団体ですが、近年、ドイッチャー記念賞の受賞講演はこの団体のカンファレンスで開催されています。
マルクス研究を中心に」、というのは必ずしも斎藤幸平さんのようなマルクスを直接対象とした研究だけでなく、左派的な研究、社会科学やアート、アクティビストによる実践報告などを含んでいます。
今年のシンポジウムには『アナザー・マルクス』を翻訳された江原慶氏や
労働と思想』でスピヴァクについて寄稿された西亮太さんもご発表をされます。

斎藤幸平さんはこの渡英のわずか5日間で合計6本の発表をされますが、それも斎藤氏の研究に対する国際的な注目度の高さを表すと同時に、それだけ発表の場があるという左派的な研究における土壌の豊かさを表しているともいえます。

気候変動・移民などグローバルに対応する必要のある社会問題、その根本として共通する資本主義の問題・その関心にこたえる研究として、日本でもますますこうした研究が発展することが求められるでしょう。

【斎藤幸平さんマルクス研究関連著作】
nyx叢書003『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝
『大洪水の前に』201部限定特装版
nyx叢書002『マルクスとエコロジー:資本主義批判としての物質代謝論
『nyx』3号 第一特集「マルクス主義からマルクスへ」